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空飛ぶソイ・ソーセージの全て

空飛ぶソイ・ソーセージとは、存在せず、かつふわふわと軽い何かである。そんなふうに細く長く続けていけたらいいですね。

通勤ラッシュと聖人の話

 満員電車って不思議な空間ですよね。特に毎朝七時から九時頃までの通勤ラッシュとき

たら、ランドセルのガキからツイードジャケットの爺さんまで、老若男女多彩な赤の他人たち

にぎゅうぎゅうに揉まれつつでも決して、決して話してはならない、ましてわめく歌う踊るな

んてもっての他だからただ黙って呼吸をしているよりほかない、っつっても、いま吸ったこの

息はきっと誰かが既に吐き済みの呼気、なァんて考えるだけでおぞましいから考えない、逃

げたくなってもまだ八駅もあるから何だかやたらと眠くなっちゃって眠っている、眠っていら

れるほど幸運な、座席に掛けられた客たちが、隣人の肩を枕に大口開けて、ささやかな休息を

貪っている、その涙ぐましい光景を、しかし他の立ちっぱの乗客たちは尻眼にもかけず、し

かしだからといって目覚めている同士も目を合わせもしないから、自然視線は手元の携帯、も

しくは上へ、とそれで最近じゃ上手いんだ、その視線の流れを受けとめるべく、信者を見守り

戒める教会堂の聖人画ほどに夥しい数の広告が、吊革とともにぶら下がり、壁、窓、天上にベ

タベタと張りつけてあるけれども、こんな環境で見せられればかえって印象悪くて宣伝として

は逆効果なんじゃないかしらんって思いつつもつい読んじゃうとあら、こりゃ一発ストップ下

痢止めだよってんで自分の腹具合が心配になる、出掛けに飲んだ牛乳、あれ古かったからなで

も駅のトイレはなァ、入りたくねえなァ、特に大便器はなァ、自分の前誰が使ってたか知れな

いからなァ、なんて考えた途端鼻を突く謎の異臭が立ち込め、発生源を探るきっつい睨みがぱ

ぱぱッと飛び交う中、いや自分じゃないですよってごまかそうとして顔をしかめて見せる人び

とがどっと、ようやく着いた駅で降り、しかし息つく間もなくまたどっと乗る、というのを後

七駅繰り返す、あーあ、というのを週五、六回繰り返す、あーあそんな空間です。嗚呼、こ

れに比べて安息の日の何と安らかなことか、何故ってさすがに日曜の朝は平日ほど混んでない

ですから、通勤も楽なわけですよ。